header

キャンプ砂防が拓く砂防への道のり

平成8年(1996年)にスタートしたキャンプ砂防は、令和4年(2022年)で28年目を迎えました。 この夏も全国の砂防事務所で開催され、新たな一コマが各所で刻まれたところです。

以下の記事は、月刊メディア砂防2010年10月号に記載された記事で、 過去最多回数参加者への単独インタビューの内容を一部修正して掲載したものです。

全国の大学生の皆さん、是非一度キャンプ砂防にご参加いただいて、 この先100年、200年という長い時間、日本という国を支える「砂防」を人生の選択肢のひとつに加えてみませんか?

キャンプ砂防OGに聞く(2010)

キャンプ砂防がいまの私の礎に

~周りのキャンプ生は砂防に関する知識が豊富で、それがかえって刺激になりました~

(2010年)現在、日本工営株式会社国土保全事業部砂防部に所属する中村朝日さんは、弘前大学・同大学院で檜垣大助教授の指導を受けた4年間に、 日光砂防事務所(2005年)、六甲砂防事務所(2006年)、立山砂防事務所(2007年)、富士砂防事務所(2008年)の主催するそれぞれのキャンプ砂防に連続で参加している。
これらキャンプ砂防で得た豊富な体験は、技術者として2年目を過ごす中村さんにとってかけがえのない宝となった。 中村さんに、参加した当時を振り返りつつ、キャンプ砂防の今後の意義や必要性などについて語ってもらった。

id1

参加した4箇所のキャンプ砂防についてそれぞれ印象など教えてください。最初は日光砂防ですね。

はい。これはちょうど3年生の前期が終わり、研究室の選択をしないといけない時期でした。 講義終了後に檜垣先生からキャンプ砂防を紹介され、参加してみて良かったら砂防の方に進もうと考えました。 ですから最初は研究室の選択のためという意味もあったんですね。

日光は、先生からいくつか推薦された中から選びました。 砂防の講義というのは1つか2つしか取っていなかったので、あまり知識のない状態で行ったキャンプ砂防は、 わからないことだらけで辛かったですね。ただ、周りのキャンプ生は砂防に関する意識が高く、知識が豊富で、それがかえって刺激になりました。 自分の中でもっと知識があれば…というもどかしさでしょうか。 あと憶えているのは事務所の方たちがとても熱心だったことです。 色々なところを見せていただきました。今ちょうど日光の業務に携わっているので、そのとき身につけた土地勘がとても役立っています。

そして4年生になって六甲砂防へ。

研究室に配属されて4年生の夏ですね。日光のときには知識が少なく悔しい思いをしたので、あれから一年勉強してみてどれくらい成長しているのか、チャレンジする思いで参加しました。

六甲は、日光で見てきたこととは少し違ってグリーンベルトなど植樹に力を入れているところ。 今まで砂防や地すべりを勉強してきましたが、ここでは林学との関係など切り離せないものなのだなと認識できました。 特に講師として来てくださった大手先生(編集部注:大手桂二 京都府立大学名誉教授)には刺激を受けました。 土地ごとに必要な植樹方法を確立されていて、大学で林学系について学ぶ機会もなかったのでとても新鮮で、新しい視点を得ることができました。

修士課程に進んで、今度は立山でした。

就職のことをぼちぼち考えつつも、すでに2回参加していましたし、せっかくなので学生のうちに色々と見ておきたい!という気持ちが強かったですね、 このときは。日光と六甲に参加してみて、同じ砂防でも全然違うということがわかったので、なおさらでした。 研究室では「立山はいいらしい」「砂防の道に進むなら立山は見ておく方がいい」という話が伝わっていました。

立山では本当に勉強させてもらいました。立山カルデラの現場の壮大さ、砂防の歴史、先端的な砂防の工法…。 あとホームステイをさせていただいて、地域の方と地域のものを食べて、お酒を酌み交わしてというのが本当に楽しかったです。 これは今でも交流が続いています。年賀状を交換したり。

id3

立山での添木替え体験(立山砂防)

id3

大沢崩れをバックに(富士砂防)

最後のキャンプ砂防は富士山を選びました。

もうここまで来たらまた参加しよう、と(笑)。富士山のキャンプ砂防はとにかく楽しかったですね。 富士山へのあこがれと、火山砂防を学びたかったので選びました。就職も決まった後だったので、 今度は社会人になってからのことを意識して、会社に役立てるようにと、より具体的な目的を持って臨みました。 そういう意味ではがむしゃらにやっていた3年とは、少し姿勢が違っていましたね。

だんだんステップアップしていった、ということがよくわかりますね。

今思うと順番はとても良かったです。全部で4回、全国の砂防現場の代表格を見てまわれたという感じでしょうか。 観光地を守る砂防、グリーンベルト、鳶崩れ、大沢崩れ…。 実際に現場を見たことは本当に自信につながりました。言葉で知っているだけでなく、ちゃんと見てきたんだぞという…。

そうしてキャンプ砂防の経験を存分に積んで、コンサルタント会社に入社しました。

キャンプ砂防での経験を通じて一番感じたことは、砂防は現場ありきだなということでした。 もともと先輩を見ていて、コンサルタントは面白そうだなとも思っていたので、キャンプ砂防で見たような仕事を実践しようと思いました。

ちなみに研究室の進路は、自分の2つ3つ上は公務員が多く、私よりも下は民間コンサルが多いという傾向があるようです。

id4

仕事中の中村さん(於:渡良瀬川)

では会社に入ってみて、キャンプ砂防がどのような点で役立っていると思いますか。

今、私は砂防部に所属しているんですけれど、キャンプ砂防に参加せず、研究室で学んでいるだけだったら、 今よりももっと苦労したと思います。キャンプ砂防で学んだ知識が今は頼りというか、 研究室で工事現場など見に行く機会は多くはないですし、専門に研究していたのは地すべりについてだったので、 大きく砂防のことはあまり勉強していませんでした。 流域全体―源頭部〜下流部〜地域住民の生活―というところまで考えることや、流域全体を見る目を養わせてもらったのは、キャンプ砂防でした。 だからこそ4回も行ったというのがありますね。砂防の全体的なことを学ぶために、本当に意義がありました。 今の私の仕事のベースになっているといっても言い過ぎではありません。 繰り返しになりますが、会社に入って切実に思いましたけれど、現場を知らないでこの仕事に就くとイメージがつきにくいと思うのでしんどいのではないでしょうか。 砂防を志す学生に言えるのは、やはり社会に出る前に少なくとも現場を見ておくべきで、そのためにはキャンプ砂防には行っておいた方がいいということです。

大変有難いコメントをありがとうございます(笑)。

中村さんのようにキャンプ砂防をたくさん経験していると、ひとのつながりも同様に多いだろうと思います。 砂防学会なんかに行くと、キャンプ砂防で一緒だった人と会うこともありますね。 思うのですが、例えばHPにそうした先輩たちの声を載せたり、掲示板などで交流できたりすれば、 これから参加しようと思う学生たちにとって大きな意味があると思います。 先輩たちの進路も官公庁や民間コンサルなどと一覧で出ているとわかりやすい。 卒業した先にどうなっているか、というのを見せてあげるのもひとつですね。

OBたちの集まりなんていうのは如何でしょう。

そうですね。キャンプ砂防に4回参加させていただいて感じたことですが、女性が結構いるんですね。 だいたいどこも半々くらいでした。別にそこにこだわることもないのですが、そういう意味ではキャンプ砂防の女子会みたいなのがあると嬉しいです。 また現役で参加している女性たちをこの業界にどんどん引っ張っていきたいとも思います。 私はOL(オフィスレディ)じゃなくてFL(フィールドレディ)と自称しているのですが(笑)、そんな女性がもっと増えて欲しいですね。

コンサル業界はタフな世界なので、まだ女性が多くありません。 弊社の国土保全分野に携わる人間は全国で100人を超えていますが、女性の技術者は私を含めて3人だけです。 女性独特の悩みを相互に相談し合えたりできるような環境が、業界の中で育っていって欲しいと思います。(了)

大学の先生に聞く(2010)

大学とキャンプ砂防

キャンプ砂防への参加の呼びかけは、全国の砂防関係講座を持つ大学を中心に行われています。 これまでに、多くの学生の参加へご協力いただいたお2人に大学教員を代表いただき、次の質問にお答えいただきました(2010)。

【質問項目】

①キャンプ砂防に期待すること
②夏休み明けの大学に戻ってきた学生の様子
③就職支援に関して取り組んでいること、力を入れていること
④学生(特にキャンプ砂防に関心を持つ学生)のタイプの変化
⑤学生の進路状況

岩手大学農学部共生環境課程 井良沢道也 名誉教授

①昔は砂防学講座などで複数の教員で指導できる体制にあったのですが、現行では1人の教員が研究室を立ち上げているにとどまります。 入学してくる学生に環境志向が強いこと、カリキュラムで砂防の基礎的な科目(水理、土質、構造力学、コンクリートなど)を教える時間がないのが実情です。 さらに教科書では砂防事業論、ソフト対策論、地域や住民と砂防の関わり論、防災教育論などが本当に手薄です。

以上のような背景から現場で実体験するキャンプ砂防に期待することは非常に大きいです。 これからは1年生、2年生にも重点をおくと良いと思います。今後の砂防を志す予備軍はこの年次の学生だからです。

②地域との関わりで砂防は成立している、砂防の歴史に感動した、自分自身に防災意識が欠けていることを痛感した、参加した学生同士の連帯感を感じたなどと語ってくれました。 砂防に強く関心を持ってもらうきっかけづくりには大いに役立っていると思います。

③共生環境課程の森林科学コースを主担当としていますが、昨今、大学生の入り口(入学の際の競争率)と出口が重要視されています。 学習プログラムは充実した実験・実習が特徴で、講義による基礎知識の修得に加えて実践的な能力を養います。 懇切丁寧な学習指導と修得レベルの向上をモットーとしており、日本技術者教育認定機構(JABEE)のプログラム認定を目指しています。

④何事にも前向きな学生、活動的な学生が多いような気がします。

⑤当方の研究室に限っては、 ここ9年(2010当時)で国6人、都道府県10人、市町村1人、コンサルタント5人、その他12人、他大学大学院2人。公務員と民間で半々といったところです。

京都府立大学生命環境学部森林科学科 松村和樹 教授(2010)

①学生の社会への窓として、社会人としての自覚を高めるための準備。 そのために、職業人として、立派に楽しく活躍されている人の姿を見て、アドバイスをもらうこと。

②一般に楽しかったという感想が多い。特に地方のエリアでホームステイをして、それらの人々に暖かくもてなされたことが心に残っている様子である。

③地方公務員(土木職)希望が多く、今年も数人が合格している。 これらの学生の共通点は面接に強みを出しているので、知識のみではなく、社会情勢の把握、共同での研究調査や実験を行わせるようにしている。

④最近の学生の特色として、一部の学生をのぞき、自ら動くことをしない。また、就職や人生に対する目標が明確でない割合が多くなってきているように見受けられる。

⑤進路状況は、砂防学を研究室に選択した以上、民間に行くには業種が限られ、4年生の就職は文系就職も多い。 また、安定感を求めて、公務員志望が多いが、国よりも地方(府県、市)の土木職に流れている。民間ではコンサルタントが多くなってきている。

【座談会】キャンプ砂防を語る

「キャンプ砂防」は平成8年から開始され、これまでの参加者はのべ1500人にせまる。その経験者(OB・OG)たちは、砂防に限らず、広く様々な分野で活躍している。本座談会では現在、各分野で活躍するOB3名と、本年度のキャンプ砂防に参加した2名の学生に、 キャンプ砂防で得たもの、今後のキャンプ砂防に期待するものなどついて、おおいに語っていただいた。(2010記事内容をもとに編集)

地域が抱える問題の解決の一つに砂防事業があることを学んだ

一番いい経験だったと思うのは、地元の人たちと夜お酒を飲みながら話し合えたことですね。色々な方が来てくれました。 地域が抱える問題の解決の一つに砂防事業があるということを教わり、でもその解決は一時的なもので、この先人口をどうしていこうかとか、 そういうことまで含めて考えるのが「砂防」なのかということが分かってきて、そこの人たちが砂防とどう関わっているのかということを知り得たことが良かったと思います。

p1

やっぱり砂防はひとを守るために存在するもの

p2

印象深かったことは本当に色々ありますが、ひとつ学んだこととしては、砂防施設をつくるときに生態系がどうとか、 景観がどうとかいろいろ考えるのだろうなと思っていましたが、急流河川ではそうも言っていられない状況があるということ。 その辺の折り合いはどうにかつけられるものだと思っていたんですが、まだ今の自分の知識では足りないところもありますが、 やっぱり砂防はひとを守るために存在するものであって、生態系を守るためだけではないんだと実感しました。

私が選んだ琵琶湖河川事務所は、日本に砂防の技術を持ち込んだデ・レーケが施工を指揮した施設も幾つか見られ、 現代砂防の発祥を見られるということで選んだように記憶しています。 実際のキャンプ砂防では、「鎧堰堤」を見学させていただいたり、 田上山のはげ山を修復していくという作業の中で積苗工を現地で実際に体験させていただきました。 地元のおばちゃんが作業している中に自分らも一緒になって作業させていただき、今思い返しても普段絶対できないような体験だったと思います。

p3
p4

今、入省して13年目ですが、7年目から去年までの6年間は四国地方整備局に赴任しており、まさしく四国山地砂防で最初の2年間仕事をしました。 そこではキャンプ砂防も担当していたのですが、自分が体験したときに面白かったことを思い出して、村長さんや地元で町おこしの中心にいらっしゃる方などから、 地域を活性化させるためにどういう取り組みをしているか、その中で砂防はどう関わっていくべきかというような話をしていただいたり、 実際に地元の方と交流できるような内容を盛り込みました。

実際に被災した方から聞いた話が自分の中でターニングポイントになった

「砂防を仕事にしたい」と思うきっかけとなったのが、大町さんという町の再生に取り組まれる方の講話を伺ったことです。 「自分が生まれ育ったこの町に住みたい」という強い思いが伝わってくるお話でした。雲仙では、 色々と現場も見せていただきましたけれども、実際に被災され、地元の復興に取り組まれる方のお話が、自分の中でターニングポイントになりました。

p5

所長はじめ現場の方みんなが自分の仕事に対して誇りを持っていることにすごく感銘を受けた

たったの5日間でしたが、行く現場行く現場で、所長さんをはじめ担当の方、そこで工事に実際に取り組んでいる方々も含め、みんながみんな本当に誇りを持っている、 今、自分がやっている仕事というのに対して誇りを持って働いていらっしゃるということにすごく感銘を受けてあこがれを持ったことを憶えています。 そういったことから、今のような職場を選んだきっかけになったのかなと思います。(川崎)

人間と自然との折り合いを考える、その一部を見ることができるのはすばらしい

学生にとっては実習以上に生で現場を感じられる機会なので、是非とも良い機会ととらえて参加してほしいと思います。 砂防に限らず、色々なことを必ず感じ取ることができる場になることと思います。 そういった期待を持ってキャンプ砂防というものに関心を持ってもらえればと思います。(川崎)

気になったらまず参加してみる、動いてみる。考えるよりもまず行動してみてください、というのが今後の方へのメッセージです。(鷲尾)

将来の進路を考えている人にはすごくためになるものだし、ちょっと興味があるかなっていうだけの人でも、環境とかに興味があって来るという人たちでも絶対に収穫はあると思います。 やっぱり一度、人間と自然との折り合いを考える、その一部を見ることができるのはすばらしいことです。(秋山)

id5
graph